福島県のご当地グルメ「白河ラーメン」。いまや「喜多方」を凌ぐ勢いで、全国から食べに訪れる人が急増しています。
白河市民によって育まれてきた郷土料理「白河ラーメン」。その長い歴史を紐解いてみましょう。
そもそも「白河ラーメン」をご存知ですか? 「白河」とは地名のこと。福島県の中通り南部に位置する白河市に由来。東北の玄関口としても知られている街です。
『奥の細道』の冒頭に記されている「白河の関」と言えば、ピンとくる人も多いでしょう。
「白河ラーメン」の歴史は古く、発祥は大正10年。明治時代から続く、お汁粉屋の二代目・故木伏源松氏が、横浜市で修業を積み、手打支那そば店『亀源』を開店したところから始まります。
その後、約40年で閉店してしまいますが、そこで働いていた弟子のひとりが、後に人気店となるお店を立ち上げるなど、『亀源』の味わいは着々と後世に受け継がれていったそうです。
歴史を語るうえで、欠かせないお店が、手打中華そば『とら食堂』。「白河ラーメン」の特徴とも言える「ちぢれ麺」は、先代・故竹井寅次氏が生みだしたといわれています。
もともと白河市の名物には「白河蕎麦」があります。こちらの歴史は長く、約200年前、藩主・松平定信が冷害に強い蕎麦の栽培を奨励したことがきっかけといわれています。
現在は「信州」「出雲」「盛岡」に次ぐ「日本四大蕎麦処」のひとつとして、「白河」が挙げられるほど有名です。
その蕎麦打ちの技法を応用した麺が「縮れ麺」。木の棒で打ち、包丁で切り出し、手で揉んで縮れをつけることで、スープによく絡む、ツルツルモチモチ食感の麺に仕上げたのです。
故竹井氏は、教えを乞う人たちすべてに、その技術を伝授。そして、師匠から弟子へ、弟子から孫弟子へ…と伝承され、いまの「縮れ麺」が広まっていったそうです。
現在では、人口46,000人の市内に100軒近くの「白河ラーメン」店が林立。しかも、どこも賑わっているという点から見ても、そのおいしさがわかります。
地元の人たちの厳しい「舌」に応えるべく、さらなる進化を続けていることはもちろん、熟練の技によって、「白河ラーメン」そのものも日々進歩しているのです。
醤油ベースの澄んだスープと縮れ麺で仕上げる「白河ラーメン」。基本を守りつつ、おいしい味わいを追求する探究心こそが、その名を全国に知らしめた理由なのかもしれません。
きっと、老舗の味わいも、時代に合わせた新たな味わいも、白河市の郷土料理であり、白河市の食文化のひとつであることに変わりはないのでしょう。
「白河ラーメン」には、各店舗の技とこだわりがギュッと凝縮され、さらに熟練の技によって進化を続けています。
匠七人衆が手がける「渾身の一杯」と共に、おいしさの秘密と魅力を紹介していきましょう。
白河ラーメンを代表する老舗店
毎朝5時半からつくる手打ちのちぢれ麺は、店主の経験とノウハウが詰まった逸品。気温や湿度を見極め、極限まで水分を減らして練り上げる多加水麺は、適度なコシとツルツルの食感が特徴。
ダシには鶏ガラと豚ガラを使用。沸騰する寸前で炊き上げる澄んだスープは無化調ならではの美しさが光る。仕上げには、秘伝の熟成醤油タレのほか、チャーシューを煮込んだ煮汁も追加。
炭火で焼き、醤油で煮るチャーシューそのものだけではなく、煮汁までもが味わいを引き立てる必需品になっているなど、麺、スープ、具材のすべてのバランスが整った、深みのある味わいだ。
毎日食べても飽きない味を伝承
店を構えて約30年。シンプルだからこそ丁寧な仕事ぶりが伝わる一杯で人気のお店。
鶏ガラとトンコツ、野菜から出る旨味をたっぷりと湛えたスープは、口当たりがやさしく、しっかり効かせた醤油ダレがアクセントに。手打ちのちぢれ麺はコシがあるのに、つるっとなめらかに喉を通っていく。全体的に調和の取れたラーメンに仕上がっている。
トッピングは、ほうれん草、なると、メンマ、海苔といった定番の具材だが、肩ロースを軽く炙って余分な脂を落としたチャーシューは食べ応え十分で、ファンも多い。毎日食べても飽きない味を求めて、足繁く通う人たちも多い。
独自のアレンジが光る正統派
白河駅すぐの商業施設『楽蔵』内に2016年3月オープン。地元出身の店主は「白河で飲食店をやるならやっぱりラーメン」と独学でラーメン作りを開始。伝統的な白河ラーメンをベースに、独自のアレンジを加える。
伊達鶏を中心に3,4種の鶏ガラをブレンドし、豚ガラ、地元野菜などで加えたスープは、すっきりしつつもコク深い。手打ちの中太麺とよく絡み、やさしい味わいが口の中に広がる。
肩ロースを炭火で炙ってから低温調理したチャーシューは、しっとりジューシーな質感。人気の「ワンタン麺」は、具無しで極限まで薄いワンタンで、つるっとのど越しがいい、店主こだわりの一杯だ。
独自に進化を続ける自慢の一杯
「自分の感性を磨くため、和洋問わずさまざまな料理に触れ、良いとこ取りをしています」との言葉通り、独自の手法で進化を続ける自慢のメニューがずらり。
おすすめは「辛ミソタンメン」。多くのメディアが取り上げる話題のメニューだ。ベースとなる自家製の特製ミソは、野菜に火入れをしながら丁寧に仕込む手間の掛かった逸品。ほかでは味わえないコクがクセになる。
スープは、鶏ガラ、豚ガラ、丸鶏を使うことで、すっきりしながらも深みのある味わいに。手打ちの縮れ麺も、独自の配合で小麦をブレンドした多加水麺。野菜もたっぷり入っているので女性にも大人気。
洋食のエッセンスが斬新なお店
豚、鶏、魚介、乾物、昆布、野菜など10種類以上の食材を使用したスープ。ローストポークをヒントに仕上げた国産ブランド豚のチャーシュー。地元の醸造から直接仕入れて独自にブレンドした醤油。
粉からつくる青竹打ちの自家製ちぢれ麺…。
無添加、無化調、自家製にこだわるラーメンは、洋食の経験を活かした店主ならではの独創的な逸品。
おすすめは、塩、味噌、醤油でもない「琥珀」をベースにした「こはく・どぅ・こんかっせ」。トマト、オリーブオイル、かつおぶし、ブラックオリーブ、パプリカパウダーなど、アンチエイジングの食材がたっぷり。多彩な味わいが口の中に広がる新感覚のラーメンだ。
コクのあるさっぱり系ラーメン
カラダにやさしくて、箸を進めるほどに深みが伝わり、食べた後には醤油の旨味がただよう…。有名店『とら食堂』での経験を活かし、さらに昇華した逸品を目指している。
無化調、自家製、手間をかけた手打ちの縮れ麺こそ同じだが、鶏ガラと豚ガラを炊いてつくるスープに、こちらでは隠し味として豚背ガラを追加。少しだけ濃厚な味わいに。
また、炭火で焼き、さらに醤油で煮るチャーシューの工程は一緒でも、ラーメンのタレとして使う煮汁は、内モモのみを使用。さっぱり&あっさりとした独自の「白河ラーメン」に仕上げている。
白河ラーメンの伝統を受け継ぐ一軒
名店『とら食堂』で腕を磨いた先代と二代目が切り盛りする正統派。毎朝仕込む手打ちのちぢれ麺は、手や感覚が覚えているというほど。開業以来35年、丁寧な仕事でこの味を守り続けている。
スープは、鶏ガラをメインに鶏油、ネギなどをじっくり丁寧に煮込む。味の決め手となる醤油ダレは、チャーシューの漬けダレを継ぎ足しで使っている秘伝の味だ。
チャーシュー、ワカメ、メンマ、海苔をトッピングする基本の「らーめん」のほか、ピリ辛のゴマダレを加えて担々麺風に仕上げた「ごまらーめん」も人気。シンプルながら奥深い味わいは、すぐに食べたくなるおいしさ。