日本の「食」文化を大切にしたい。
「日々の食事を大切にしたい」と考えるみなさんにとっての、
共感の場となるコミュニティー(相互交流の場)を目指すブログです。
感謝、共有、体感、学・知、貢献をテーマにさまざまな情報を発信しています。
東京都『中央卸売市場足立市場』って、どこにあるか知っていますか?
松尾芭蕉の作品『奥の細道』で知られる千住大橋のすぐ近くにあります。
その歴史は古く、始まりは天正年間(1573~1592年)。江戸時代には、徳川幕府の
御用市場として、神田、駒込と共に「江戸三大青物市場」として栄えたそうです。
そして昭和に入ると、魚市場も収容。総合市場として『中央卸売市場足立市場』が誕生しました。
しかし後に青果部門のみ移転。現在は都内唯一の水産物専門の中央卸売市場であると同時に、
築地、太田に並ぶ「東京中央卸売市場」のひとつでもあります。
では『中央卸売市場足立市場』とは、いったいどのようなところなのでしょう?
浅草『魚料理 遠州屋』の若旦那・安喰伸明さんの案内のもと、働く人たちにインタビューを実施。
「大人の社会科見学」的視点で、現場が抱えている問題や課題などを伺ってきました。
~プロフィール~
安喰伸明(あぐい のぶあき)さん
1975年東京生まれ。
浅草『魚料理 遠州屋』の二代目若旦那を務める。
約50年前、初代が『魚河岸』に通い始めたことを
きっかけに、幼少時から遊び場として河岸に出入り。
早くから「鮮度の見分け方」といった「魚の目利き」、
「魚の生態・歴史」までも習得。書籍『魚の辞典』では
監修として名を連ねる、まさに「魚の達人」だ。
タイ、ニシン、ヒラメ、ホタテ、ハマグリ…など、ところ狭しと並べられた発泡スチロール。
その合間をすり抜けながら、そして勢いよく走ってくる「ターレット」(左下写真の奥に見える
黄色い乗り物。結構速い)を避けながら、奥へ奥へと進んでいきます。
吹きさらしの場内の床は常に水びたしで、保冷するための氷もどっさり。
足の裏からジンジン感じる冷たさを噛みしめながら、夏ならさぞかし快適だろうと考えていると、
「逆に氷がどっさりある分、湿度が高くなるので、それはそれで辛いですよ」と若旦那。
そんな会話を交わしながら、まず一軒目の『卸』に到着。
「おはようございます! 連絡していましたタラってどれ? ああ、これ。なるほど、うーん…」と、
挨拶もそこそこに、一匹ずつ目利きしていきます。
見た目の色合いを始め、目の色、表面の張り、エラの裏側など、実際に触って確認。
魚の種類によって目利きするところも変わるというので、その知識の豊富さにびっくり。
さらに今度は「もう少し安くならないかなー、まとめて買うからさー」と、
価格についての交渉もしていきます。目利きができるからこその強みですね。
その後も『卸』を次々とハシゴ。
もちろんその都度、現金払いなので、万単位でお金を使っていきます。
途中で“大物”のマグロ専門の『卸』へも。脂のノリを確かめるため、指で触って、舐めて確認。
高価な買い物だけに、表情も真剣です。
ここでちょっと『魚市場』での買い付け方法についてカンタンに説明しましょう。
若旦那の場合は、当日の午前1時に『卸』へ電話。買い付けたい魚介の種類を伝えます。
するとセリの始まった3時ごろに「○○産なら□□□円くらいです」といった返答の連絡が。
「いる、いらない」などの返事をした後、今度は自ら早朝の市場へ出向いて、実際に目利き。
モノ(魚)がホントにいいものなのかを判断していくそうです。
なお市場にいる時間は短い時で2時間。長い時は築地にも出向くので4時間以上。
そこから戻ってランチ営業の支度。終わったら仮眠。
今度は17時からの営業に備えて準備。仕事をこなし、12時ごろから仕入れる魚を決めて1時に連絡…と、
睡眠時間は足りているのでしょうか?
そんな「目利き」&「価格交渉」をさまざまな『卸』で繰り返しながら巡ること約2時間。
ひと通り買い付けが終わったところで、ある有名人を紹介してくれました。
『東京都中央卸売市場足立市場』を取り仕切っている『卸協同組合大内』の大内さんです。
50年以上もここで働き、時代の移り変わりを自らで見てきた、いわば生き字引のような存在だ。
「昔は人も多くて活気があったけど、いまは閑散としているよ。
ちょっと前までは買い付ける人が行列を作って、20~30分待ちなんて当たり前。
飲食店の人なんかは、ランチの仕込みに間に合わせなきゃならないから、それこそ戦場。
でも最近は大型スーパーの影響から魚屋さんも減って、それに伴って買い付ける人も減少。
もちろん水揚げ量が低迷している影響もあるかな。いまは『卸』の数も全盛期の半分くらい。
それでもウチは、市場で一番大きく、種類も豊富だから買い付ける人も多くて助かります」
ここでちょっと『魚市場』の仕組みについてもカンタンに説明しましょう。
まず「魚を獲る漁師、養殖で育てる業者」がいます。
そこから「地元の漁業連合」などに託した後、卸売市場に運ばれてきます。
卸売市場でセリが行われ「卸売業者や仲卸業者」が購入。
そこから「魚屋、スーパー、飲食店」が買い付けて、私たちのところに届く、というわけです。
もちろん、すべての工程で目利きが行われているので、
品質はもちろん、安心・安全で新鮮な魚介が消費者のところまで届いていたのです。
しかし現在は、漁業組合から直接仕入れるケースや、
もっと手前の漁師さんや養殖業者から直接手に入れるところも増えたといいます。
工程が省かれた分、流通コストが削減され、商品は安くなりました。
しかし、目利きという点も相当省かれてしまったことで、
本当に良い品が、消費者に届いているかというと疑問が残るところです。
さらに若旦那いわく
「“氷見のブリ”や“大間のマグロ”といった、ブランド信仰的な世のなかも疑問です。
多くのブランドは、水揚げされた漁港などによって決められます。
でも海はつながっているので、漁港などによってブランド化すること自体が不思議だと言います。
ブランドが付いている魚の中には回遊魚もいますから」
便利で楽な世のなかが進むほど、大事な部分が見えなくなり、
いつしかその「カンタンな仕組み」に翻弄され、結果として自分たちが損をしていく…。
そんな図式が見えるような気がします。
最後に紹介していただいた方は、「買荷保管所」で50年以上働いている苅草さん。
買い付けた人たちの魚介が間違われたり、盗難にあったりしないようにする、いわば荷物番です。
「昔は電車の引き込み線が場内にあって、運ばれてきた貨物車から魚介を降ろして、
そのまま市場に運んでいました。冷蔵技術の進化とともにトラック輸送が主流になり、
駐車場はいつも満杯。それこそ番をしている車も150~200台以上ありましたね。
でも最近はガラガラ。数える程度になっています。そもそも市場というのは街の中心にあって、
その周辺に魚屋さんや八百屋さんといった商店が建ち並び、周りに住宅が
集まっていたはずなのに、秋葉原の青果市場は大田区に、築地も近いうちに豊洲へ。
それに豊洲に移転したら、約2000ある『卸』を800にするとか…。
どんどん市場の需要がなくなってきたなーって感じますよ。寂しいですね」
初めて訪れたこともあって、以前はどれだけの人が集まっていたかは不明ですが、
ある程度、閑散とした雰囲気は、そこにいるだけでも分かりました。
場内には、買い付ける人よりも『卸』の人が確実に多かったですから。
安値を追うばかり、それと引き換えに何か大事なものを失い、
狭い世界を作り続けている「いまの世のなか」を見せられたような気がします。
みなさんも一度、社会科見学として『中央卸売市場足立市場』に訪れるといいでしょう。
本来、市場法により、場内で購入することはできませんが、市場で働く人たちを見ていると、
スーパーで売られている魚とは違って「食の大切さ」「市場の大切さ」を実感できるはずです。
もちろん場外や売店の利用は可能なので、朝食を食べに立ち寄ってみるのもいいかもしれません。
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